雨上がりの景色を夢見て
「母さん、大丈夫なの?」

自分だって大変なのに、お母さんの心配をする上田くんの言葉に、切ない気持ちが込み上げてくる。

「母さんは大丈夫、それより自分の手首安静にな」

お兄さんは、上田くんの手からペットボトルを受け取り、キャップを閉めた。

「うん…あっ、母さんから着信来てる。かけ直してくる」

待合室のソファーに置かれた、お兄さんが持ってきてくれた野球バックからスマホを手にした上田くんは、そう言って1人病院の入り口に向かった。

「弟がお世話になっています」

入り口を出る上田くんの後ろ姿を見送って、お兄さんは私に丁寧に言った。

「いえ、もう少し痛みが和らぐような処置ができればよかったのですが…」

お兄さんと目が合う。

バタバタしていて、今まともにお兄さんの顔を真正面から見たけれど、とてもよく上田くんと似ている。

そっくりすぎて、見れば見るほど、どこかで会ったことあるような気がしてくる。

まじまじと見てしまい、お兄さんの顔が戸惑いを見せた。

「あっ…ごめんなさい。弟さんとそっくりなので、つい」

初対面でこんなに見られたら、あまりいい気はしないものだ。

私は慌てて謝ったけれど、お兄さんは黙ったまま私をじっと見つめた。








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