雨上がりの景色を夢見て
「…雛…さん?」

えっ

どうして私の下の名前を…?

さっき名乗った時は、苗字しか伝えていない。

「…どうして…?」

私は驚いて、一言しか言葉を発する事しか出来なかった。

ギュッ

えっ

私の様子に、お兄さんの表情がパッと明るくなり、急に私の両手を握りぶんぶん上下に振った。

「やっぱり、雛さんだ!何で気づかなかったんだろう!お久しぶりです!」

目尻の下がった笑顔で、興奮気味に言ったお兄さん。

「あの…「上田修二ですよ。覚えてません?」

上田…修二…あっ…

「修二…くん?」

名前を口にした瞬間、私の記憶が鮮明に蘇る。

『貴史くーん!雛さーん!』

テニスラケットを持った右手とボールを持った左手を上に上げて、無邪気に呼ぶ修二くんの姿。

『修二、俺離れしないとな』

遠くから呼ぶ修二くんを見て、恥ずかしそうに笑った貴史の姿。

一瞬、9年前に戻ったような錯覚に陥った。


「思い出してくれました?」

「…ええ…上田くんは修二くんの弟だったのね」

目の前の修二くんは、私の知っている昔の修二くんと比べると、すっかり骨格が大人の男性になっていた。




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