雨上がりの景色を夢見て
「元気ないね?」

あれから数日経った、金曜日の夜。いまだに高梨先生に修二くんと会うことを伝えられないでいた。1番言い出しにくい理由は、貴史の手紙のこと。

明日のお昼に修二くんとの約束がある。

車の助手席に座っている私の頭を優しく撫でる高梨先生の手の温もりが、私の中の、まだ打ち明けていない罪悪感が大きくなる。

「…修二くん…えっと、上田圭介くんのお兄さんと明日会う約束をしてて…」

「…えっ…」

高梨先生の驚いた声が耳に届き、私の胸がズキンと痛む。

「…黙っててごめんなさい」

高梨先生が、どんな顔をしているのか、怖くて顔を上げられないまま、自分の手元を見て謝る。

「…俺、そんな心狭くないよ?顔あげて」

優しい声に、ゆっくりと高梨先生の顔を見る。

優しく微笑む高梨先生の表情に、少しだけほっとする。だけど、私はもう一つ言わないといけないことがある。

「…修二くん、貴史の書いた手紙を持ってて…」

「貴史くんの手紙?」

私が小さく頷いたことを確認して、高梨先生は言葉を続けた。

「…ちゃんと、受け取って来て。貴史くんの大切な気持ちなんだから」

「あっ…」

高梨先生の言葉に、私は、はっとした。そうなんだ、手紙を受け取るということは、書き留めていた貴史の気持ちを私が受け取るということ。

もう一度高梨先生の顔を見る。

「俺は、待ってるよ。雛ちゃんが貴史くんの気持ちを受け取って、心の整理をするまで」

その言葉が、私の背中を押して一歩踏み出させてくれるような、不思議な感覚がした。


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