雨上がりの景色を夢見て
「…俺も渡さないと…」

そう言って、招待券と入れ替えるように、今度はカバンの中から水色の封筒を取り出した修二くん。

私の胸がドクンと大きく鼓動する。

差し出された封筒にゆっくりと手を伸ばす。

目に入ってきた文字に、胸がぎゅーっと締め付けられて、苦しくなった。

〝雛へ〟

貴史の字だ…。ちょっと丸みを帯びた、男の子にしては可愛らしい字。

「…修二くんは…どうしてこれを持ってたの?…いつから?」

平然を装って話そうと思ったけれど、声が震えて、喉の奥が痛む。

目の前の修二くんは、私を見て、苦しそうな表情を向けた。そして、グラスに入った水を飲んで、修二くんは小さく息を吐き、ゆっくりと話し始めた。

「…雛さん…俺、雛さんに謝らないといけない。ごめんなさい…。俺、この手紙、高校2年生の時から持ってたんだ…」

えっ…

「テニス部の3年生のロッカーって、春休みに3年生が私物取りに来ることになってって…。貴史くんのロッカーは、みんなで整理したんだ…。その時、この手紙が出てきて…。テニス部の中では、俺が1番雛さんと関わりがあったからって託された…」

9年も前からこの手紙が修二くんの手元にあったことに驚いた。だけど、もっと早く渡して欲しかったという気持ちはない。

それは、修二くんが私に渡せなかった理由がよく理解できたから。

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