雨上がりの景色を夢見て
「…敬語、取らないとだめですか…?」

「ダメってわけではないけど…さん付けは譲るから、お願い」

お茶目に微笑む高梨先生を見て、ずるいと思った。

そんな顔見せられたら…断れない。

「…分かりました」

「じゃなくて?」

「…分かった」

私の言葉に、満足そうに笑って、私の両手からカップを2つ取り、テーブルまで運んでくれた高梨先生。

高梨先生の意外な一面を見た気がした。いつもは私にペースを合わせてくれているから、少し押し切るようにお願いしてきたことにちょっとだけ驚いた。

「夜ご飯は食べた?」

「あっ…食べ忘れてた…」

修二くんとお昼ご飯を食べて以降、何も食べていなかったことに気がついた。そもそも、さっきまでは、手紙の事で胸がいっぱいでお腹は空かなかった。

「何か食べに行く?」

高梨先生の言葉に、時間を確認する。21時近くを指していて、今から出かける気分にもならなかった。

「もう遅いので、簡単に何か作ります…」

まだ慣れないタメ口に、ぎこちなくなる。高梨先生は、笑って紅茶を飲んだ。

「あっ、うまい」

そう言って、紅茶の香りを嗅ぐ高梨先生の姿に、お口にあってよかったと、胸を撫で下ろし、立ち上がって冷蔵庫の中を確認した。


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