雨上がりの景色を夢見て
いつもなら、カラスの行水のように、短時間でシャワーを浴びるけれども、思うように身体が動かず、いつもより動きが止まる時間が多い。

ふと、浴室の鏡に映る自分の体が目に入った。そして、自分の左肩の古傷に視線が止まる。

きっとこの先も消えることのない傷。

見ると思い出して苦しくなるけれど、消えてしまったら、貴史のことを思い出すきっかけが無くなりそうで、残っていてほしいと心のどこかで思ってしまう。

矛盾している自分の気持ちにため息が出る。

触っても痛くない肩甲骨から鎖骨あたりまでの盛り上がった傷を指でそっとなぞる。

『雛!』

あの時、痛みで意識が薄れる中、ぼんやりとした視界に映った遠くから走ってくる貴史の姿を思い出す。

胸が、ずきんと痛み、ぎゅっと握りつぶされそうな苦しさが込み上げてくる。

ああ…今日は色々と思い出して苦しくなってしまう。

きっと修二くんと再会したことで、しばらく胸の奥に仕舞い込んでいた私自身の脆い部分が出てきたのだと思う。

考え過ぎてしまう前に、勢いよくシャワーを頭から浴びた。





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