雨上がりの景色を夢見て
「少し顔出そうかしら。一応、2枚貰ってもいい?誰か誘っていくわ」

「了解」

俺は立ち上がって自分の部屋に行き、忘れないうちにと、仕事用のカバンの中からチケットを取り出しリビングに戻った。

夏奈は嬉しそうに受け取り、棚の上のボックスにしまった。そのまま冷蔵庫に向かい、中から生ハムとチーズを取り出してお皿に並べた。

「ありがとう」

テーブルに運んできてくれた夏奈にお礼を言う。

「今度ゆっくりお祝いしてあげる」

「…優しすぎて、ちょっと怖い」

夏奈の言葉に照れ臭くなり、つい冗談を言ってしまう。

「照れなくていいのに」

夏奈は、やっぱり俺の気持ちはお見通しで、そう言って笑った。

チーズと生ハムを一緒に箸でつまんで口へと運ぶ。塩気がビールと合い、体に染み渡る。

「高梨雛の響き、いいわよね」

夏奈の言葉に、思わずビールを吹き出しそうになった。

「…急すぎ」

「ごめんね。ふと思い浮かんで」

ふふっと笑う夏奈に、確信犯だと感じた。だけど、夏奈の言葉が頭の中にこだまして、顔がにやけそうになる。

「まんざらでもない顔してるわよ」

すでににやけてしまっていたらしく、夏奈にまたからかわれた。




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