雨上がりの景色を夢見て
廊下の奥から、男子生徒に肩を借りながら、ゆっくりと歩いてくる女性が見えて、私は慌てて駆け寄った。

近づいて、お腹の大きさから妊婦だとすぐに気がつき、少しゆっくりめに歩きながら声をかけて反応を確認した。

受け答えははっきりしているけれど、少し顔色が悪く、お腹の張りがあるとのことで、保健室のベットで横になるように声をかける。

「お腹大きいから、横向きの方が楽かな」

藤永先生が手際よく、枕の高さを調節したり、背中に添える用のタオルを準備してくれて、さすがお医者さんだと実感した。

「妊婦さんだから、念のためかかりつけの病院に相談した方がいいですよ」

「はい。ご迷惑おかけしてすいません。どうしても、息子の最後の文化祭に来てあげたくって…」

女性がそう言った時、再びバタバタという足音が聞こえてきて、閉めていたベットのカーテンから出た。

「せ、先生、母さん体調悪くしたって聞いたんですけど」

息を切らせてやってきたのは佐々木くんで、私の返事を聞く前にベットに近づいてカーテンの中に入った。

「母さん、大丈夫なの?だから、俺、朝、無理してこなくていいって言ったのに…」

佐々木くんは、少し厳しい口調でそういうと、心配そうにお母さんの姿を見つめた。

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