雨上がりの景色を夢見て
「母さん、本当に無理しないでよ。俺、母さんにも元気でいてほしいし、妹が産まれてくるのも楽しみなんだから」

佐々木くんのお母さんは、タクシーで一度家に帰って、そこから入院の準備をしてから、念のため一度受診する事になった。

職員用の駐車場に来たタクシーに乗り込むお母さんを心配そうに見る佐々木くん。

「大丈夫だよ」

藤永先生が、佐々木くんの肩にそっと手を添えて優しく呟いた。

「…はい。お医者さんだったんですね。ありがとうございました。中川先生もお騒がせしました」

「いいのよ。妹さん生まれるの楽しみね」

「はい」

そう答えて、切なそうな表情を見せた佐々木くんが気になり、保健室に戻りながら、先程驚いたことを再度確認する。

「佐々木くん、来年から海外にお引っ越しするの?」

単刀直入に尋ねると、佐々木くんは頷いて話し始めた。

「はい。母が再婚したんですが、相手がカナダ人で。妹生まれたら、3月ごろからカナダに移住です。さすがに、僕はこっちに1人残ってやっていける自信はないので…たぶん、12月の期末面談で話す予定だったんだと思います」

「そう。佐々木くん、忙しくなるわね」

「まだ、全然実感なくて。ただ、もともと国際系の大学希望してて、いつか留学しに行きたいって思ってたから、ある意味チャンスだと思えたんです。新しい父さんとも関係うまくいってるし。でも…先生、近藤さんにはまだ言わないで。自分の口からちゃんと伝えるから…」

私の顔を心配そうに覗き込む佐々木くんに、私は頷いて口を開いた。

「ええ、約束するわ」

私の答えに安堵の表情を浮かべた佐々木くんは、階段へ差し掛かると、丁寧に私と藤永先生に頭を下げて上っていった。






< 296 / 538 >

この作品をシェア

pagetop