雨上がりの景色を夢見て
「藤永先生、ありがとうございました」

佐々木くんの後ろ姿が見えなくなり、再び歩き始めた私と藤永先生。

「いえいえ。無事に生まれることを願ってますよ。ところで…」

そう言って、周りに誰もいないことを確認して、私に切なそうな表情で話し始めた藤永先生。

私は立ち止まって、藤永先生の言葉に耳を傾ける。

「…私が、先ほどの生徒のお母さんの対応をしている時の、夏奈さんの表情が気になりました…。何か聞きましたか?」

藤永先生も気がついていたんだ…。

「…実は、私も夏奈さんの心境が気になっていたんです…。真剣な表情だったんですが…何を考えてるのか読み取れませんでした。…ただ…」

そう言って、藤永先生の様子を確認する。今から言うことは、本当に藤永先生に相談していいのだろうか。

私の心境を察して、藤永先生は真剣な表情で頷いた。

「…うん、続けて…」

私は言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。

「…夏奈さんは、病気のこともあるので、妊婦さんを見て複雑な気持ちにはなったと思います。そこまで私の配慮が回らなくて…すいません。夏奈さん、一見明るいけど、1人になると色々考えちゃうって高梨先生が教えてくれた時がありました。あの時、もしかしたら、自分の気持ちを1人で抱え込んでいたのかもしれません…」

もしかしたら、保健室に残っている今、夏奈さんは色々な考えを巡らせているのかもしれない、と考えると胸が締め付けられた。




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