雨上がりの景色を夢見て
「しかし、夏樹くんの結婚の話には驚いたよ」

「私は、ほっとしました。夏樹の人生が動き出して…あっ…」

自然と、そう口にした自分に驚いて、慌てて藤永先生を見る。

「…ずっと夏奈さんのそばにいたから…かな?」

やっぱり、藤永先生は気がついていたんだ。夏樹の気持ちと私の心配を。

私は頷いて足元を見る。

「…夏奈さんは自分の人生考えたことある…?」

えっ…。

藤永先生にそう言われて、私の歩く速さがゆっくりになる。

相手が藤永先生だから、正直に話してもいいのかな…。

そう思えて、私はゆっくりと口を開いた。

「病気のこともあるので…独身を貫くつもりです」

「…それは、好きだと言ってくれる人がいても?」

私は頷いて言葉を続ける。

「だって…いつかはきっと子どもを欲しくなると思うんです。そうなった時に、私はその願いを叶えてあげられない…。…正直、今日の妊婦さん見た時、もちろん心配しましたけど、私には出来ない経験をしていることが羨ましかったんです…。お腹の中に感じる我が子の胎動。産まれてくるまでの苦悩。私にはこの先感じることのできない感覚に、疎外感を感じました…」

涙は出てこないけれど、のどの奥が苦しくなって声が震えた。

電話をかける先生の姿、心配する生徒、見守る雛ちゃん。

みんながベットの上の妊婦さんのために動き、想っていたのに、私にはそれが出来なかった。

酷い人間だと思った。

頭では分かっていたけど、いざ目の前にすると、自分の感情を抑え込むことで精一杯だったことが1番ショックだった。







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