雨上がりの景色を夢見て
腰に回された手が、私の身体をさらに抱き寄せ、藤永先生の体温が、濡れた服越しに伝わってきて、私の心拍数が上がっていく。

ゆっくりと唇が離れ、そして身体が離れる。俯く私の頬を藤永先生の両手が包み込み、目と目が合う。

「結婚しよう。そして、夫婦になろう」

〝夫婦〟と言う言葉に胸が熱くなる。叶わないと諦めていた、大切な人の存在。

見つめられる私の目がじわっと熱くなり、視界がぼやけた。

「…っ…はい…っ」

雨の音が耳の奥に届く中、私達はもう1度、唇を重ねる。お互いの舌を絡め、気持ちを確かめるような、濃厚なキスに、身体が離れた後も、わたしの頭がぼーっとする。

「…びしょ濡れだ。家が近いから、寄って行って」

傘を拾って私の身体に被せながら、藤永先生が呟く。

私は頷いて、藤永先生の傘を持つ手に自分の手を添えた。

雨のせいでお互いの冷たくなった手が、少しずつ温かさを取り戻していく。

ふと、私の気持ちをちゃんと言葉にして伝えていないことに気がつき、歩きながら藤永先生先生の顔を覗き込む。

「藤永先生…」

「ん?何か?」

ポケットからメガネを取り出してかけた藤永先生が私を見る。先程までとの雰囲気のギャップに、胸がドキッと跳ね上がる。

「私の事を理解してくれてありがとうございます」

そこまで言って、一度深呼吸をする。そして、言葉を続けた。

「私も、藤永先生の理解者になりたい」

仕事の忙しさ、現場での患者さんとの向き合い方、私が入院を経験したからこそ理解できる部分があると思う。

だからこそ、藤永先生の良き理解者でありたいと想った。

藤永先生の返事の代わりとなった優しい微笑みが、私の心を温めた。



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