雨上がりの景色を夢見て
歩いて5分ほどのところにある高層マンションに入り、エレベーターで上がっていく。

広い廊下の突き当たりに、藤永先生の部屋があり、指紋認証でロックが解除された。

「何も無いところだけど…」

そう言って、扉を開けて、私を中へと招き入れる。

「…素敵」

テレビで見るような高級ホテルの一室のように、リビングのガラス張りの窓から市街が一望できる。

焦茶をベースにした壁に、黒で統一された家具が映えて、とてもシックな印象の部屋。

壁一面の本棚には、難しい医学に関する本や資料がびっしりと並んでいる。

「先にシャワー浴びてきて。これは乾燥機だから、濡れた服を入れてスイッチ押すといいよ」

そう言って、私を浴室へと案内する。渡されたタオルはとてもふわふわで、肌触りが良いものだった。服が乾くまでの間、藤永先生の部屋着のTシャツと短パンを手渡された。

シャワーを浴びながら、たった30分ほど前の出来事を思い出す。

藤永先生が、ずっと好意を寄せてくれていたという事実にとても驚く。

出会いはいくらでもありそうなのに、それでも私を選んでくれたことが素直に嬉しかった。

そして、私の傷が、身体の一部だと言葉をかけてくれたことが、藤永先生の人柄の良さを表していると思った。

鏡に映る、お腹の傷に手を当てる。そしてその手を下腹部までずらす。

私の身体では、子どもを産むことはできない。それでも良いと言ってくれた藤永先生の存在が、私にとって、とても大きかった。

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