雨上がりの景色を夢見て
「…パン屋さんのあんぱんが、とっても美味しいんです」

車が進むにつれて大きくなる緊張に、私は気持ちを紛らわそうと、話題を振る。

「じゃあ、帰りに買って帰ろうか。夏奈の分もかな」

高梨先生が、すぐにそう答えてくれてほっと安心した。空気が少し和らいだように感じて、私は質問をする。

「…夏樹さんと夏奈さんは…つぶあん派ですか?それとも、こしあん派ですか?両方置いてあるんです」

「えっとね、俺はつぶあん派で、夏奈はこしあん派」

双子だけど、好みが分かれていることに、少し驚いたけれど、なんとなくそれぞれにピッタリな気がした。

「あっ、ここかな」

「はい…。そこが貴史の家です」

高梨先生の言葉に、私は貴史の家を指差した。

煉瓦造りの大きな家で、貴史のお母さんの趣味のガーデニングが華やかな庭は、あの頃と全く変わっていない。

駐車場に車が止まったことを確認して、ゆっくりとドアを開ける。

あの頃のままの家を目の前にして、私の胸がぎゅーっと締め付けられる。

「行こう」

後部座席から、手土産の入った紙袋を手に取り、私に声をかけた高梨先生。

わたしは小さく頷き、一度静かに深呼吸をして歩き始めた。











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