雨上がりの景色を夢見て
「雛さん?」

ショッピングセンターの入り口を出てすぐに、名前を呼ばれて立ち止まった。斜め後ろに、昨日会ったばかりの修二くんが驚いた表情で立っていた。

「…雛ちゃんのお友達?」

「えっ、あっ、…まあそんな感じかな?」

まさかと驚き、修二くんへの反応が遅れた私は、菜子の質問に、歯切れの悪い返答をしてしまう。

「偶然って、2日連続で続くんですね。ちょっと笑えてきちゃう」

冗談めかしてそう言うと、修二くんは私たちに近づいてきた。菜子に優しい笑顔を向けて、しゃがんで目線の高さを合わせる。

「こんにちは。お姉ちゃんとお買い物?」

修二くんの言葉に、私は少し驚いた。すぐに妹だと気がついたから。

そもそも、修二くんは私に妹がいたと話したことがあっただろうか。もしかして、貴史から聞いていた?

「…こんにちは」

恥ずかしそうに答えながら、私のチュニックの裾をぎゅっと握った菜子。

「雛さんそっくり」

菜子の言葉にニコッと笑って修二くんは立ち上がった。

そうだ、

「上田く…弟さんの手術は、無事終わった?」

上田くんのことが頭をよぎり、修二くんに尋ねる。

「無事終わりました。圭介、朝すごい不安がってて。でも、『中川先生の魔法の言葉があるから』って。雛さんあいつに何って言ったの?」

魔法の…言葉?

昨日の上田くんとのやりとりを思い出して、記憶を辿っていく。

あっ、あの言葉、上田くん覚えててくれたのね。

「…内緒」

昔の私を知っている修二くんに知られるのは、ものすごく恥ずかしい。
< 32 / 538 >

この作品をシェア

pagetop