雨上がりの景色を夢見て
「ほんの、数日前よ」

「…信用出来る人？」

控えめだけど、少し心配そうに尋ねた高梨先生に、夏奈さんは穏やかに微笑む。

「大丈夫、夏樹も信用できる人。だって、相手の人は…藤永先生だから」

藤永先生って確か文化祭に一緒に来ていた主治医の先生。この数日で一体何ががあったんだろう。

不思議に思ったけれど、2人の想いが通じてとても嬉しくなった。

「ふ、藤永…先生って、病院の？」

「そうよ。驚いたでしょ？」

動揺している高梨先生に、悪戯っぽい笑顔を向けると、空になった先生のグラスにレモン果汁入りの炭酸と焼酎を入れた。

「…ちょっと頭が混乱してて…」

そう言って、夏奈さんの作ってくれたサワーをゴクっと一口飲んだ高梨先生。

そんな先生の様子を微笑みながら見ていた夏奈さんは、ローストビーフを味わった後、言葉を続けた。

「私達、やっぱり双子よね。同じ時期に素敵な相手が現れるんだもん」

夏奈さんは、ふふっと笑って、今度は私に視線を向けた。

「あの時の妊婦さんは元気かしら？」

「はい。あの２日後に無事に出産しました」

そう答えながら、佐々木くん転校の話も、高梨先生に伝えておく必要があることを思い出した。

だけど、今はまだ、藤永先生と夏奈さんの急展開に混乱している様子の高梨先生を見て、後で落ち着いてからゆっくり話そうと思った。


< 338 / 538 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop