雨上がりの景色を夢見て
「雛ちゃん、大人びてるけど、中身はきっとまだまだいい意味で幼いわよ…?」

純粋だという意味も込めてそう言うと、夏樹には伝わったようで、妙に納得した様子で頷いた。

「時が止まってたのよ、あの子の中で」

「…なるほどな…」

社会へ出て、順調に社会経験は積んでいるけれど、恋愛や対人関係では殻に閉じこもりがちだったのだと思う。

明らかに、初めて会った時よりも社交的になってきたと感じるのは、貴史くんのことを乗り越えたことと、夏樹と付き合うようになったからだと思う。

そんな彼女に、夏樹の大人の付き合い方と言っていいのかは分からないけれど、色々な駆け引きや、葛藤の混ざった接し方は、ちょっと背伸びしても刺激が強いのではないかなと思う。

「…藤永先生は…やっぱ俺なんかと比べ物にならないくらい落ち着いてるんだろ?」

夏樹の口から出た名前に鼓動が大きく波打つ。

「それって、どっちの意味で聞いてる?」

「んー…どっちも。普段もだし、そういうことする時も」

夏樹の目は、半分くらい瞼が閉じかけていて、珍しくお酒を飲んでいる途中で寝落ちしてしまいそうなほど酔っている。

「…大人よ。それもかなりギャップのある」

メガネを外すとスイッチが入っている証拠だと知っているのは私だけ。

「…俺に足りないのは、ギャップかな…」



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