雨上がりの景色を夢見て
高梨先生の笑顔が少し寂しそうに感じて、私は無意識のうちに、先生の頬に手を伸ばしてそっと触れた。

「…私…不安にさせること…しましたか?」

「えっ…」

私の言葉が意外だったのだろう。先生は、驚いた表情で私を見つめる。

「珍しく…分かりやすいほど顔に出てます」

「…そっか。いや…俺自身の問題」

ふっと笑って、高梨先生は起き上がってベットの上にあぐらをかいて座った。

私も状態を起こして、高梨先生と向き合い、顔を見上げる。

「…私じゃ…話し相手にならない…?」

そう尋ねると、高梨先生は、困ったように微笑んだ。

「そういうわけではないよ…。ただ、俺が話し出すのに躊躇すると言うか…。年上なのに、情けない姿見せたくないから。…って言っても、もう見せちゃってるな。酔っ払って、彼女の肩を借りてるんだから…」

バツの悪そうな表情の高梨先生は、自分の前髪をくしゃっとした。

その様子を見て、私は高橋先生に抱きつきたいと思う衝動を止められなかった。腰に手を回して、胸板におでこをピタッとくっつける。

「私は言葉では全然頼りになんてならないけど…こうして少しだけ温もりを感じさせることは出来ると思います…」

そして、ゆっくりと先生の顔を見上げて視線を合わせた。

腰に回していた腕をほどき、先生の両頬を両手で包み込む。

「…雛…」

切ない目で、私の名前を呼ぶ高梨先生の声が頭の中に何度も繰り返される。

「…酔っていなくても…そう呼んでくれる?」

呼び捨ての方が、特別感を得られる気がして、それを望んでいる自分に気がついた。

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