雨上がりの景色を夢見て
いつもの呼び方は、なんとなく、わたしの幼さを助長させている気がする。

だから呼び捨てにされた時、ちょっとだけ対等な見られ方になった気がして、嬉しかった。

「…もちろん」

高梨先生の言葉を聞いて、私は自然と微笑んで、高梨先生の顔に、自分の顔を近づける。

「ねぇ…もう1度言って」

「雛」

少し恥ずかしそうにしながらも、微笑んで私の名前を呼ぶ高梨先生に、嬉しさで、私の胸がぎゅーっと締め付けられる。

「…目を瞑って」

「…えっ」

「…見られてると、恥ずかしいから」

自分でも大胆なことを言っていると思う。だけど、高梨先生へのこの気持ちを表すために、自分が何をできるか考えて行くと、こうすることしか思いつかなかった。

先生がゆっくりと目を閉じる。そのことを確認して、私は先生の唇に、自分の唇を重ねる。

先生の唇がすぐに反応して、離れようとする私の唇に噛み付くようにキスを続けた。

後頭部にいつのまにか添えられた手が、離れようとする私を阻止して、キスを続ける。

「…雛…っ」

唇が離れて、切なそうな眼差しで、私を見つめて呟く高梨先生。

再び、胸が締め付けられて、私の方からキスを続ける。

「夏樹さん…そばに居てくれて、ありがとう」

高梨先生の手が、私の髪の毛をかき上げる。手の感触を、頭皮に感じながら、言葉を続ける。

「手を差し伸べてくれたから…少しだけど、強くなれた気がする…」

先生の頬に添えていた手を、先生の首に回し直す。膝立ちになって、ぎゅっと力を入れて抱き寄せると、先生の顔がちょうど私の胸元にあたった。




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