雨上がりの景色を夢見て
「でも、貴史くんは雛ちゃんにぞっこんだったのよね?」

「…はい。聞いたことがあるんです。貴史が、同級生の女の子と楽しそうに会話をしているのを見た日の帰りに…。私のどこが良いのって。今考えたら、重たい女ですよね」

「ふふっ…。そんなことないわよ。きっとそれ、やきもちよ、雛ちゃんの」

「…やきもち…。そうかもしれない…」

「それで、貴史くんは何て答えたの?」

夏奈さんが寝返りをしたのが、布団の音で分かった。

「すごく、予想外の言葉が返ってきました」

あの時、私はてっきり、当たり障りのない言葉が返ってくると思っていた。

でも、優しい表情の彼の口から出た言葉は、今でもこころに残っている。

「…私の不器用なところが好きだって」

「不器用…?」

「一見、何でも自分でこなしているように見えるけど、心の中ではすごく困ってるところが、助けがいがあるって言って笑ったんです」

その言葉に拍子抜けして、思わず吹き出して笑ってしまったことを思い出した。

「すごいわね、貴史くん。雛ちゃんのこと、よく見てた証拠ね」

夏奈さんは穏やかな口調でそう言うと、ふふふっと笑った。

「はい…。私は、何度も貴史に助けられました」




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