雨上がりの景色を夢見て
「これからは、夏樹にいっぱい甘えるといいわ。喜ぶわよ、夏樹」

悪戯っぽく笑うと、夏奈さんが再び寝返りをした布団の音がした。

「はい」

私もふふっと笑って、横向きに体勢を変える。

こんな風に、貴史の話を出来るようになったのも、前を向けるようになったのも、高梨先生と夏奈さんの存在が大きかったから。

「夏奈さん」

薄暗い中、夏奈さんに声をかける。

「なぁに?」

「いつも優しくしてくれて、ありがとうございます」

「そんなかしこまらなくてもいいのよ。でも、どういたしまして」

穏やかな口調で答えた夏奈さんの声が、私の耳にしっかりと届き、安心する。

「明日、多分夏樹はお昼頃まで起きないと思うから、私の運転で出かけましょう」

「はい」

確かに、今日の飲みっぷりを見ていると、そんな気がする。

「おやすみ、雛ちゃん」

「おやすみなさい」

瞼を閉じると、すーっと意識が遠のき、すぐに夢の中へと吸い込まれて行った。














暗闇の中、大人の言い争う声が響き渡る。心臓がバクバクしている私は、耳を両手で押さえてしゃがみ込む。

この状況を、私は遥か昔に経験したことがある…?

曖昧な記憶を辿るけれど、答えが見つからない。

『早く、朝が来れば良いのに』

そう思った記憶は鮮明に蘇った。




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