雨上がりの景色を夢見て
雛のお母さんは、俺が話し終わると、悲しそうな表情で口を開いた。

「…それは…きっと、私と元夫のせいね…」

俺は何も言わずに、お母さんの言葉に耳を傾ける。

「雛が小学校2年生の時に別れたんだけどね…年長さんの頃からかしら…元夫は、酒癖が悪くなって、ストレスが溜まると大声出したり手を出したり。出会った頃はそんな事なかったんだけど…」

話を聞きながら、自分の心拍数がどんどん増えていくのを感じた。

「私達が大声で言い争いをしている中、あの子は自分の部屋にこもっていたの。怖い思いをさせてしまっていたわ…。元夫が寝たのを確認して、雛の様子を見に行くと、いつも机の下で寝ていた…。罪悪感でいっぱいの気持ちで、あの子を抱き抱えてベットに寝せてたの」

話しながら涙ぐむお母さんにつられて、俺も胸が締め付けられて苦しくなる。

「そのせいね…。私、母親失格よ。あの子の苦しみに気づけてなかった。今が幸せすぎて、元夫との事から目を背けて、無かったことにしてた…。雛の心に刻まれたままの恐怖だったのに…」

「…雛さんは、原因が実のお父さんの素行だとは覚えていないようです…。俺、どうしたらいいですか…?」

事実を伝えて、記憶を鮮明に蘇らせるのは酷な気がする。けれど、原因も分からず、暗闇に怯え続けるのも辛いと思う。

正直、俺には判断できないと思った。


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