雨上がりの景色を夢見て
雛のお母さんは、しばらく考え込んだ後、口を開いた。

「…高梨さんから見て、雛が原因がわからず苦しんでいると思った時に、事実を話してもらっていいですか?伝えにくかったら、ここに連れてきて。…私から話をします」

ティッシュで涙を拭いて、雛のお母さんは言葉を続ける。

「それまでは…あの子を見守っててもらえますか?」

涙ぐんだ雛のお母さんは、そう言って俺に頭を下げた。

「か、顔をあげて下さい」

俺は慌ててそう言って、立ち上がった。雛のお母さんは何度も何度も俺に謝って涙を拭くと、俺を見た。

「今、あの子のそばで守ってあげられるのは、きっと高梨さんだから…」

そう言って、申し訳なさそうに俺を見る雛のお母さんを見て、俺の胸が苦しくなった。

「雛さんは…いつもお母さんに強い姿を見せてたんですね」

「私の事、頼りないと思っていたんだと思います」

違う。そうではない。

その言葉を、俺は心の中ですぐに否定して、雛のお母さんに声をかける。

「一生懸命自分のために働いているお母さんに心配をかけたくなかったんですよ。きっと、雛さんは、そういう人だと思います」

雛とのすれ違いはあったと思うけれど、それでも雛は、お母さんを大切に思っているのは、雛の家族の話を聞いていると伝わってきた。




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