雨上がりの景色を夢見て
「…仁さんは…何って…?」

「雛が決めることだから、伝えたほうがいいって。その話から、もう1ヶ月経つわ…」

話を聞いて、お母さんの迷う理由もよく分かる。

だけど…

「…私が言うのも気が引けますが…仁さんの考えに賛成です」

今回の話は、ちゃんと雛の耳に入れたほうがいいことだと思った。

だって…

「雛の実の父親には変わりないのですから…」

もしかしたら、雛が暗闇を嫌いになった理由を思い出してしまうかもしれない。嫌な記憶が蘇ってしまうと思う。

だけど、血がつながっている事実はあるのだから。

雛のお母さんは、「…そうよね…」と言うと、立ち上がってタンスから1枚の写真を持ってきた。

「…この頃は、優しかったのよね」

写真に写っているのは、小さい雛が肩車をしてもらっている写真。弾けるような笑顔の雛がとても印象的だ。

肩車をしている男の人が、雛の実のお父さん。

「この写真を見せながら…今度の土曜日にでもちゃんと話すわ。雛の中に、いい思い出があるといいけど…」

不安そうなお母さんに、俺は写真を返しながら言葉をかける。

「雛さんが辛くなったら、支えますから…。事実をそのまま伝えてあげて下さい」

雛のお母さんは、俺の言葉に微笑むと、写真をタンスの中にしまった。


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