雨上がりの景色を夢見て
「行くか行かないかは、雛に任せるわ。仁さんも雛が決めることだって言ってくれてるの」

母はそう言って、真っ直ぐ私の目を見つめた。

「…少し考えさせて。決めたら、また連絡するから」

震える手を母にバレないようにテーブルの下に移動させる。

「そうね。焦らなくてもいいわ。じっくり考えて、答えを出してね」

私は頷いて、ぎゅっと左手と右手を重ねて握った。自分の中では、どんな答えが出るのかまだわからないからこそ、ゆっくりと整理して答えを出したいと思った。

「今日は、高梨さんはお仕事かしら?」

母が、私の前に、きれいにお皿に並べたクッキーを置きながら尋ねる。

「うん。野球部の合宿で、明日の夕方まで部活指導」

震えの止まった手を出して、クッキーを1枚手にとって、口に入れる。

「お忙しいのね」

「私とは違って、部活動の顧問も持つから、土日も忙しいの」

母は、私の言葉に耳を傾けながら、紅茶を飲む。

「雛は、結婚した後も仕事は続けるのよね…?」

「ええ、そのつもりよ。ただ、異動の希望は出そうと思ってるの」

「雛が異動するの?」

少し驚いた表情で、私を見る母。仕事の話をこんなに母としたのは初めてだったかもしれない、と思った。

「その方が生徒のためにも現実的かなって…。夏樹さん、今2年生持ってるから、本来なら持ち上がるはずなのよ」





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