雨上がりの景色を夢見て
清潔感のある広いロビーの案内掲示板で、緩和ケア病棟の位置を確認する。

土曜日ということもあり、総合受付はガラガラで、静かな雰囲気だ。

病院という空間は、いまだに落ち着かない。小さな個人病院であればこんなにドキドキしないけれど、大きな総合病院となると、事故の時の記憶が頭をよぎってしまい、緊張してしまう。

私は大きく深呼吸をして、息を整えると、エレベーターで5階まで上がり、ナースステーションで看護師さんに声をかけた。

「こんにちは…」

「こんにちは。どうなさいました?」

素敵な笑顔の看護師さんが私の元へ来て、優しく声をかける。

「野々村晃の面会に来たんですが…」

「あら、野々村さんの?では、この名簿に記入をお願いします」

差し出されたペンを持ち、カウンターに置かれていた名簿に記入する。患者との関係を記入する欄で一瞬手を止めて、すぐに〝子〟と記入した。

「あら…。きっと、野々村さん、喜ぶと思いますよ」

私を見て、嬉しそうに微笑む看護師さんに、私もつられて微笑んだ。

教えてもらった病室の前まで来て、閉まったままの扉の前で、父の名前を確認して小さく息を吐いた。

20年ぶりに会う父はどんな姿なのだろう。私を見て、気がつくのだろうか…。

ゆっくりと扉に手をかけて、静かに開けた。


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