雨上がりの景色を夢見て
ガラガラガラっという音に反応して、窓際で外の景色を見ていた人物が車椅子の車輪を動かして、私の方を振り返る。

すっぽりと頭に帽子を被った男の人の頬は痩せこけていて、想像をはるかに超えた弱々しい姿に、一瞬息が止まりそうになった。

「…どちらさん?」

「…雛です…。お久しぶりです…」

私の言葉に目を見開いた父の表情が、私の胸をぎゅーっと締め付ける。

「雛…来てくれたのか…」

震える声の父は、ゆっくりと車輪を動かして、私に近づいてきた。

よく見ると、写真に写っていた頃の面影が少し残っていて、懐かしさを少し感じることができる。

「…っ…」

私の手にそっと伸ばされた手を見て、私は驚きを隠せなかった。

驚くほど細い腕が、父の病状を物語っていたから。

母とさほど変わらない年齢のはずなのに、母よりも随分歳をとって見えるのは、病気のせいだということをすぐに悟って、胸が苦しくなった。

「…酒の飲み過ぎだ…。自業自得だな」

私の心境を察した父は、そう呟くと、ふっと悲しげに微笑んで、私の手を離なした。

「綺麗になったな…。若い頃のお母さんにそっくりだ…」

懐かしそうにそう言った父の言葉は、私の胸をじわじわと握りつぶしていく。

本当は、会えて喜びを感じたいのに、その気持ちよりも苦しさの方が勝ってしまい、私自身を苦しめる。

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