雨上がりの景色を夢見て
「この罪は…あの世でちゃんと精算するよ…」

申し訳なさそうな声の父の顔をまっすぐ見れない。

「…そんなことしなくて、いいから…。残された時間…大切にしてよ…？」

俯いてそう返すと、父は「優しいんだな、雛は」と呟いたのが聞こえた。

優しいわけではない。当たり障りのないことを答えただけ…。

「雛、今日は来てくれてありがとう。もう来なくていいから」

えっ…

予想外の父の言葉に、私はやっと顔を上げる。

「何回も会うと、死ぬのが怖くなるだろ…？」

言葉とは裏腹に、微笑む父に、私はかける言葉が見つからない。

「今日の思い出を、墓まで持っていくよ」

父はそう言って、日記帳をを開き、今日の日付を書いて日記を書き始めた。

「終活っていうやつだな…」

日記を書く父の姿は、私の目にはっきりと焼き付いた。













エレベーターに乗り、1階へと向かう。

何もきっかけはないのに、ふと、さっき思い出した幼い頃の記憶が頭をよぎる。

怒鳴り声や、自分の怯えている記憶。時には、母に手を挙げていた鬼のような形相の父の姿。

私の心拍数が一気に上がり、喉の辺りが苦しくなっていく。

1階について、エレベーターを降りる。少し気持ち悪さが出てきたため、私は椅子に座ろうと、ロビーに並ぶ長椅子へと向かった。

だけど私の記憶は、長椅子にたどり着く前に途切れて、目の前が真っ白になった。


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