雨上がりの景色を夢見て
「今日は家においで」

穏やかな口調でそう言うと、高梨先生は点滴の残りの量を確認して、立ち上がる。

「…はい」

私の返事を確認して、高梨先生は「看護師さんに声かけてくる」と言ってカーテンの向こう側へ出ていった。

1人になった空間で、ベットに横になって小さく息を吐く。

身体がまだ少しだるさを感じている。

だからこそ、今日高梨先生の家に行くことになって、安心している自分自身がいることに気がついた。

「中川さん、入りますよ」

「はい」

看護師さんの声に返事をすると、ニコッと微笑んだベテランの雰囲気の看護師さんが入ってきた。

「点滴の針、抜きますよ」

「…はい」

特に痛みを感じることはなく、腕の中から針を抜かれる感覚だけが残る。

「もう少ししたら、内科の先生が診に来てくださるので、そこで異常なければ帰れますよ。何かあったら、ナースコール押してくださいね」

「ありがとうございます」

お礼を言うと、看護師さんはニッコリ微笑んで、カーテンに手をかける。

「そういえば、伝言頼まれてたわ。彼氏さんかしら?電話かけてくるから、少ししてから戻るんですって」

すぐに高梨先生のことだと分かり、私は「分かりました」と答える。

「駆けつけた時、すごい慌てようだったんですよ。こっちがびっくりしちゃうくらい。そのくらい愛されてるのね。若いって、素敵」

そう言うと、看護師さんは、ふふふっと楽しそうに笑ってカーテンを開けて出て行った。

高梨先生に心配かけちゃったんだ…。そうだよね、倒れたなんて聞いたら驚くよね…。

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