雨上がりの景色を夢見て
俺は、雛が今日、実のお父さんに会いに行くことを聞いていなかった。

それも引っかかったけれど、この1週間以上すれ違いの日々が続いていて、夜寝る前にメールか電話のやりとりをすることくらいしかコミュニケーションをとっていなかった現実に、少し焦りを感じていた。

運転をしながら、小さくため息を吐く。

仕事と部活指導が中心の生活だから仕方がない。だけど、どうしたら、もっと雛のそばにいてあげられる?

その答えを、俺はただひとつしか見つけられない。

結婚前だけど。

俺が、雛のそばにいたい。

もし、検査結果が貧血じゃなかったら?大きな病気だったら?

俺は、近くにいてあげられなかったことを、絶対に後悔する。

夏奈の時に感じた気持ちが、今蘇り、ハンドルを握る手がわずかに震えた。

『あ、あの!ロビーで倒れた中川雛の関係の者です』

駐車場から走ってきた俺の息は上がっていたけど、整えることもなく、近くにいた看護師さんに凄い勢いで話しかける。

『中川さん…ああ!はい、落ち着いてください。今点滴をして寝ていますから』

状況を理解した看護師さんは、落ち着いた口調で俺をなだめると、雛の眠っているベットへと案内してくれた。


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