雨上がりの景色を夢見て
「…こういう事言うと失礼かもしれないけど、雛さん、声かけやすくなりましたね」

えっ?

「…そう?」

修二くんの意外な言葉に驚いて、焼き鳥の串を持ったまま、修二くんに聞き返す。

修二くんは、優しく微笑んで、串に残っているネギを口に入れた。

「多分、子どもと触れ合ってるからなのかな。表情はクールだけど、優しいオーラに包み込まれてる」

「…自分ではよく分からないけれど…、でも子どもたちの純粋さに心が洗われると感じることは、ある」

菜子の素直さだけではなく、保健室に来る高校生たちの無邪気さや、純粋さ、物事をまっすぐ見る姿勢に、色々な出来事に揉まれてきた心が揺れ動くような感覚に陥ることがあるのは事実だ。

「圭介も、基本純粋だから…」

「修二くんだって純粋でしょう?」

「えっ…」

あんなに綺麗な瞳で、貴史を見つめ、隣にいた私にも澄んだ瞳を向けていた。そして、今目の前にいる大人になった修二くんも同じ瞳をしている。

「…俺、結構歪んでると思います」

修二くんは、それまでとは違う苦しそうな表情で呟いた。

この表情を、私は昔見たことがある。

止みかけの雨の中、傘をささずに立ち尽くしていた修二くんの姿を思い出す。

黒い服を着た人たちが貴史の家を後にした後、ずっと玄関の前にいた。

『…修二くん…行くわよ』

私だって空っぽの心だったけれど、声をかけなければ、ずっとここにい続けるのではないかと思った私は、修二くんの腕を一方的に掴んで、自分の傘に入れた。






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