雨上がりの景色を夢見て
「…高梨先生」

振り返って、仕事モードの高梨先生を見る。手には懐中電灯を持っていた。

「机の上に、スマホ置きっぱなしだったので…困ってるのかなって心配で来ました」

真っ暗な廊下を、懐中電灯の灯で照らす高梨先生。

「…ありがとうございます。すごく助かります…」

「そう。来てよかった」

私の言葉に、高梨先生は優しく微笑む。

「今日はずいぶん、遅くまで頑張ったんですね。職員室には、3年生の進路指導の先生と、副校長先生しかいないですよ?」

隣を歩きながら、高梨先生は足元を懐中電灯の明かりで照らす。

「掲示物をリニューアルしようと思って、色々作ってたらこんな時間になってしまいました」

「そうだったんですね。保健関係の掲示物、楽しめるような工夫してますよね」

「見てくれてたんですね」

高梨先生が、そういうところまで気がついていてくれたことがすごく嬉しかった。

「生徒も、立ち止まって見てる姿よく見かけます。クイズとか、仕掛けがある掲示とか…」

「1人でも多く興味を持ってくれているなら、作りがいがあります」

ふふっと笑って、階段を1段ずつ慎重にのぼっていく。

「俺、更衣室で着替えてからいくので、中川先生は先に戻っててください」

そう言って、私の手に懐中電灯を握らせた。先生の手が触れるだけで、私は今でもドキドキする。

職場だから、と自分の気持ちに言い聞かせて、私は鼓動を落ち着いたのを確認し、職員室へと向かった。

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