雨上がりの景色を夢見て
ぐつぐつと音を立てて、美味しそうなお肉が煮えていく。豆腐や白滝が、程よく茶色に味が染み込んでいて、ご飯が進みそう。

「この辺いいかも」

私が、先生の分を取り分けるより先に、先生が私の分をとって、私に渡す。

「夏樹くん、紳士だね」

仁さんは、感心してニコニコと高梨先生を見た。

「いっぱい食べて、健康でいてもらいたいので」

照れた様子でそう答えると、今度は菜子の分も取り分けてくれた。

数回しか会っていないけれど、すっかり菜子と打ち解けた高梨先生を、菜子は〝夏樹お兄ちゃん〟と呼ぶ。

最初呼ばれた時は、

『お兄ちゃんっていう歳ではないんだけど…』

と、遠慮していた高梨先生だけど、人懐っこい菜子に〝夏樹お兄ちゃん〟と呼ばれ続けるうちに、すっかり定着してしまった。

後から菜子に聞いたら、お姉ちゃんはいるけど、お兄ちゃんがいないからと、結構単純な理由だった。

「仕事で疲れてるのに、悪かったね」

「いえ。こんな贅沢なお肉なかなか食べれませんし、久々にお会いできて良かったです」

仁さんと高梨先生は、ビールの入ったグラスを軽く当てて、一気に飲み干す。

「うまいな」

「うまいですね」

そう言って、2人は満足そうにグラスをテーブルに置く。

お互い、穏やかな性格で、話すテンポも似ているからか、いつの間にか距離が近くなっていた。

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