雨上がりの景色を夢見て
ふと、遠くでトレーニングをしている雛を見る。

遠くからでも、あたふたしている様子が分かり、内心かわいいなと思いながら、俺はトレーニングを続けた。

「ねぇ、あれって中川先輩じゃない?」

「あっ、本当だ」

そんな会話が耳に入り、声をした方を見る。

雛と同世代くらいの男女が、並んでトレーニングをしていた。汗を拭きながら、雛のことをチラッと見る2人。

「やっぱり美人ね」

「だな。美人すぎて、遠くからしか見れないけど」

そう言って談笑する2人。

やっぱり、昔から周りの人もそう思ってたんだ。

「大和田先輩と並んでると、さらに圧倒される感じだったわよね」

「貴史さんもイケメンだったからな…」

貴史くんの名前に、俺はつい反応して、動きを止めてしまう。

「さすがに、中川先輩、立ち直ったのかな」

「どうだろう。でも、こうやって人目につく場所に来てるってことは、前向きになってるんじゃないか?」

人目につく場所に来てることに感心している様子に、俺の胸に引っかかるものがあった。

「…私さ、噂で、大和田さんの後追おうとしたって聞いてたんだけど、あれって本当だったのかな」

えっ…

「あー…どうだろう。まあ、俺もちらっと耳にはしたけど。まぁ、中川先輩の気持ちは分からなくもない。目の前で、恋人無くしたら…喪失感半端無いだろ」

会話を耳にしながら、俺の心拍数はどんどん上がっていく。

後を追おうとした?それって…そういうことだよな。

まだまだ、知らない事だらけなのは、十分承知しているけれど、さすがに、衝撃的だった。

でも、雛は、今は幸せだと言ってくれている。あえて傷を抉る事をする必要があるのだろうか。

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