雨上がりの景色を夢見て
空になったグラスに気がついた店員さんが手を伸ばしてくれて、私は頭を下げてグラスを渡す。

少し離れた所にあるバイキング形式のテーブルへと歩み寄った。

披露宴、やった方がいいよね…。短い時間とかでも良いのかな…。私が気になっているのが、成長の振り返りのスライド。

複雑だった幼少期を振り返るのが嫌だから。そういうのもカット出来るのかな。でも、不自然に思われるのかな…。

もやもやする気持ちを押し流すように、グラスの並んだテーブルから、シャンパンの入ったものを選び、もう一度飲む。

お酒が回り始めて、少しだけフワッとした気持ちになり、色々考えていた頭の中が少しだけ楽になる。

サンドイッチやフルーツをお皿に少し取り分けて、高梨先生の元へ戻ろうと、体の向きを変えると、

「夏樹、久しぶり」

夏奈さんを見ていた高梨先生に、女性が話しかけたのが見えて、私は足を止めた。

下の名前を親しげに呼んだことが、少しだけ胸にチクッと刺さる。けれど、夏奈さんの共通の友達だと思えば、不自然なことではないと思い直した。

だけど、楽しそうに話す2人の姿を見ると、今私が行って、会話を邪魔してしまうことになることは避けたくて、私は高梨先生の視界に入らない場所へ移動して、お皿に取り分けた料理を口へと運んだ。


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