雨上がりの景色を夢見て
私は、首を横に振り、

「ありがとう…」

と呟いて、津川先生を見る。

「…中川さんは、自分では気がついていないと思うのですが…、おそらく心理療法が必要な状況だと考えられます。今まで、気づかずに、1人で耐えてきてたんですね」

えっ…

津川先生の言葉に驚き、心臓がドクンっと跳ねた。

「でも…私、そんな風には…思ってなくて」

私の反応に、津川先生は、穏やかな表情で頷いた。

「状況に慣れすぎてたんですよ…。中川さんのお話を詳しく聞いてからになりますが…PTSDを発症してるのだと思われます…」

「PTSD…」

その言葉は、私もよく目にする。養護教諭の研修会でもたびたび話題になっているから。

でも、まさか自分が発症するとは思ってもいなかった。

「その心理的ストレスから、貧血の症状が出たり、急に動悸がしたりと、体の不調が出てきてるんです」

ストレス…。振り返れば、この前貧血で倒れたのは、父親との幼少期のトラウマのことを知って、ひどく動揺した時。

それまでも、たびたび暗闇の中で不安を感じたり、貴史のことを思い出して、苦しくなったりと、気持ちの浮き沈みは激しかったとは思う。

だけど、その時だけで、日常生活にはさほど差し支えなかったから、気にしすぎないようにしていた。

大丈夫だって、思えてたんだけどな…。




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