雨上がりの景色を夢見て
「…夏樹さん…本当に、私と結婚してもいいんですか?」

明らかに、私の言葉に驚いて、固まった高梨先生。

自分で言い出しておきながら、胸の鼓動が、ドクンドクンと大きく身体の中に響き渡る。

先生は、私に嫌気が差していないのかな…。婚約していることを、後悔したことはないのかな…。

「俺が、雛のそばにいたいんだ。前も言っただろ?雛と幸せな家庭築きたいって」

「だけど…」

「雛、いいんだよ。夫婦になるってことは、幸せ2倍で、苦しみ半分」

高梨先生はそう言って、ふわっと優しく笑うと、私の頭を軽くポンポン撫でる。

先生の言葉が、素直に嬉しくて、目が熱くなり、視界が涙でぼやけた。

「俺、今、中々上手いこと言った?」

わざと、冗談めかして言ったことはバレバレだけど、そういう高梨先生に、私は救われている。

「…っ…」

喉の奥が苦しくて、言葉が出ない私の目からこぼれ落ちる涙を何度も指で拭ってくれる高梨先生。

「雛…。仕事は、辛くない?」

意外な質問に、私は驚いて、高梨先生の顔を見上げた。

今まで、仕事の進み具合は気にかけてくれたことはあっても、一度も仕事の辛さについて、聞かれたことがなかったから。

「…仕事は、楽しいです」

気持ちが落ち込んでいても、仕事をしていれば、余計なことを考えなくなる。

「ならよかった。…それって、雛のすごいところだよ」

高梨先生は、安心した表情で、私の目を見て微笑む。

「そうですか…?」

「うん。気持ちが辛い時でも、仕事を頑張れるのは、やりがいを感じてるってことだね」

そう言われて、少し照れくさくなり、だけど仕事をする姿勢を認めてもらえた気がして心がすーっと軽くなった。

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