雨上がりの景色を夢見て
『はっきりとは断言できませんが、治療を根気強く続けていく事で、症状はかなり改善されると思いますよ。ただ、中川さんの場合は、症状が出てから長期間経っているので、慢性化しているものだと思われます。長期の治療になると思います』

症状が改善されると分かって、少しだけ安心した。

『…治療、津川先生にお願いできますか?』

『ええ…でも、どうして?』

『藤永先生のお知り合いですし、それに、今日話して、信頼できそうな先生だって思えたので…。先生、雛のことお願いします。俺も、できる限りの努力しますので』

俺の言葉に、津川先生は、穏やかな表情で頷く。

そして、俺の目をまっすぐ見て、口を開いた。

『高梨さんがいて中川さんは心強いと思いますよ』

その言葉に、俺の胸が、苦しさから少しだけ解放された。











ガチャッ

リビングの扉が開き、髪の毛の湿ったままの雛が入ってきた。

「ラーメン、煮ていい?」

「はい。ありがとうございます」

結婚式用のパリッとした雰囲気の化粧から、すっぴんのあどけない表情に変わった雛を見て、俺自身がほっとする。

ラーメンを煮込む俺の元に近づいてきた彼女は、鍋の中を覗き込む。自然に俺の左手首を掴む仕草に、ドキッとしてしまい、思わず雛の方を見た。

横から見ると、長いまつ毛がより際立って見える。絹のようにきめ細やかな肌色が、お風呂上がりのため、まだほんのり赤い。

「そろそろ、具材も入れて一緒に煮込みますか?」

「あっ…ああ、そうだね。キャベツも準備したから入れて食べよう」

「はい」




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