雨上がりの景色を夢見て
『…俺、雛の苦しみの半分もまだ理解しきれていないんだと思う。まだまだ雛の中には計り知れない悩みや苦しみ、不安があると思うんだ…。話してくれたとしても、遠慮して全部はぶつけてこないと思う…』

コーヒーを飲んで、そう言った夏樹は、悲しげな表情を浮かべた。

『相手に全部理解してもらおうって思っていないと思うわよ…?』

『えっ…』

『だって、全部ぶつけたら、それは重荷になってしまうって考えちゃうもの…』

私は、自分の心の中に、苦しみを溜め込もうとする気持ちが理解できる。

私もそうだから。

『全部じゃなくて、心の中に仕舞い込めない部分だけ受け止めてもらえるだけで、十分なの…。あとは、分かっててもらえるだけで、安心できるのよ…』

吐き出せる場所があるだけで、救われる。私にとって、夏樹や藤永先生がそうであったように、雛ちゃんにとって、夏樹がそういう存在で居てくれるだけで、救われるのだと思う。

『逆に…無理に吐き出させようとすると、傷つける事だってあるわよ…?』

言いたくない事だってある。言うことによって、今の関係が崩れてしまうかもしれない、見方が変わってしまうかもしれない。だったら言いたくない。

そういうことだって、ある。

私の言葉に、夏樹はじっとコーヒーを見つめていた。





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