雨上がりの景色を夢見て
「3軒目誘われたんだけど、雛、どうする?」

2軒目の会も終わりに近づいて、お手洗いから戻ってくる途中、高梨先生が、私のところに来て、聞いてきた。

「…結構飲んじゃったので、そろそろ帰ります。あっ、でも高梨先生はせっかくですし、行ってきてください」

おそらく、メンバーの中には、高梨先生と同じ英語の先生で、今回異動してしまう先生がいると思い、そう伝える。

高梨先生は、しばらく考えて、

「戸締まり、ちゃんとするんだよ」

と答えて、誰も見ていないことを確認して、私の頭を撫でた。

今まで、職場の飲み会の時でも、こんなことしたことは無かったのに、人目がないとはいえ、こんな行動をとることに驚いた。

「…あっ、ごめん」

慌てて手を離す高梨先生に、私は首を横に振る。

「…嬉しい」

素直な言葉が口から出てきて、私自身が驚いた。

高梨先生は、私の顔を覗き込んで、ふっと優しく微笑む。

「何かあったら、すぐに連絡して」

「はい」

私も微笑み返して返事をする。

「あっ、高梨夫妻。そろそろお店出るよ」

安藤先生が私達に気がついて、ニコニコしながら声を掛けた。

〝高梨夫妻〟と言われて照れ臭くなり、高梨先生を見上げる。

お酒のせいではなく、さっきよりも顔が赤くなった先生に、私は思わずクスッと笑ってしまった。



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