雨上がりの景色を夢見て
「今日はありがとうございました」

お店の前で、先生達にお礼を言うと、みんな笑顔で答えてくれた。

「じゃ、気をつけて」

高梨先生が、最後に念を押して、そう言った時、

「雛ちゃん?」

私の後ろから、聞き慣れた声が聞こえて振り返る。

あっ…

「夏奈?」

私よりも、先に高梨先生が名前を呼んだ。

「そっか、今日離任式だったのよね。あっ、初めまして。兄がいつもお世話になっています」

夏奈さんは、先生達に挨拶をして、丁寧に頭を下げると、ヒールの音を響かせて、私に近づいた。

「夏奈さん、こんな時間にどうしてここに?」

「圭吾さん、急患が入って、帰って来れないみたいだから、病院にお弁当届けて来たところなの」

そういえば、すぐ近くに、橘病院があるんだった。

「雛ちゃんだけ帰るの?」

「はい」

「じゃあ、雛ちゃん、今日泊まりにいらっしゃいよ」

えっ…

「私、1人で寂しかったのよ。ね、いいでしょ?夏樹」

「あっ、まぁ、雛がいいなら」

高梨先生は、急な話に慌てて答える。

「雛ちゃん、どうする?」

笑顔で聞かれて、私は自分の気持ちを冷静に整理する。

たしかに、高梨先生はこのまま3次会に行くから、私は家に1人になる。多分、心細くなる…のかな。

高梨先生も、私が家に1人でいるよりは、夏奈さんと一緒にいた方が安心できるのかな。

そっちの方が、気兼ねなく楽しめるのかもしれない。

「…行きたいです」

私の答えに、夏奈さんは嬉しそうに微笑んだ。


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