雨上がりの景色を夢見て
「遠山先生、大変お世話になりました」

「ありがとう。高梨先生も結婚おめでとう」

ほろ酔いの遠山先生は、いつも以上の優しい笑顔で、目尻に皺を作りながら言った。

「ありがとうございます」

50代後半の遠山先生は、おそらく、次の学校で定年退職を迎える。確か、母校だって言ってたな。

「ところで、中川先生とはいつからお付き合いを?」

「えっと…8月からです」

俺と夏奈の誕生日の前日。思い出してみると、もう少しスマートな告白の仕方があったのに、と思う部分もある。

「とんとん拍子で結婚まで来た感じだね」

「そうですね。自分でも驚いています」

付き合うまでは、恋人を作らないとか、結婚はしないと決めていたのに、雛と付き合い始めると、一緒にいたい欲望がはっきりと芽生えてきた。

完全に、これは独占欲なんだと思う。

「中川先生とは、運命だったんだろうね」

遠山先生は、嬉しそうに俺を見る。

「俺は、結婚して30年経ったけど、やっぱり結婚当初の気持ちとか、付き合っていた時の新鮮な気持ちは今でも思い出すよ。今の気持ち大切にするんだよ」

「はい」

遠山先生は、俺の空になったグラスを見て、腕を伸ばして、焼酎の瓶を手に取って注いでくれた。

「いただきます。遠山先生も」

今度は、瓶を受け取って、俺が遠山先生のグラスに焼酎を注ぐ。

「乾杯」

カチンと、小さな音を響かせてグラスを合わせた。




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