雨上がりの景色を夢見て
「夏樹さん…」

餃子を包みながら、隣にいる高梨先生に声をかける。

「んー?」

手際よく綺麗に形を作って、お皿に並た高梨先生は、もう一枚皮を手にとって、返事をした。

「前に、どうして今の仕事に就こうと思ったのかの答えを保留にしてたの覚えてますか?」

「うん、覚えてる」

「…餃子包みながら話してもいいですか?」

「うん、聞かせて」

高梨先生の返事に、私はほっと息を吐いた。そして、もう一枚手に皮を乗せてから、話し始めた。

「私、貴史の事故の後、学校に行けてなくて。しばらくして保健室登校が出来るようにはなったんです…。だけど、出入りする色々な教科の先生が、私に気を遣いすぎてて、腫れ物に触るような空気がすごく苦痛だったんです…」

「…それは…辛かったね…」

高梨先生の言葉に頷いて、私は話しを続ける。

「ただ、石田先生からはそんな空気全然感じなくて。きっと気にかけてくれてはいたんだとは思います。でも、あえて私が気にしないように、そっとしておいてくれたし、でもたわいのない話で気分転換をさせてくれて…とっても居心地が良かった…」

包み終わった餃子をお皿に置いて、もう一枚皮を手に取る。

「教室に入れるようになってからも、気持ちの浮き沈みが激しかった時は、保健室に足を運んでたの。…私の心の支えになっていた保健室のような空間を、同じように困っている子の休める場所として作ってあげたいって思うようになって…養護教諭を選んだんです」

「そうだったんだね…」

「なかなか難しくて、うまくできないことが多いですけど…」

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