雨上がりの景色を夢見て
「最初から理想通りに行く先生なんていないんじゃない?色々経験しながら理想に近づいていくんだと思う。ある意味、それが楽しさなのかもね」

高梨先生の言葉は、すごく説得力があって、私の心に刺さった。

「清水や近藤、他の生徒たちも保健室に気軽に足を運べてることは、雛にとっての理想への一歩だと思うよ」

「はい」

「…雛、俺、かなり踏み込んだこと、聞いていい?」

えっ…

高梨先生の顔を見ると、真っ直ぐと私の目を真剣な眼差しで見つめた。

きっと、私が答えたくないと思うようなことを聞こうとしているのだと思う。

そして、その質問に、私は心当たりがある。結婚するにあたって、伝えておいた方がいいのか悩んでいたから。

反らせないほどの、強い視線に私は頷いて、最後の餃子の餡を包んで、手を洗った。

そんな私の行動を見て、高梨先生も手を洗い、冷蔵庫から缶ビールを出して私に差し出した。

「…うまく答えれるか、分からないですよ…?」

「いいよ。汲み取るから」

穏やかで優しい表情を見せる高梨先生。

先生のこの表情は、とても不思議なことに、私はなんでも打ち明けられるような、そんな気持ちにさせられる。

私は先生から缶ビールを受け取って、リビングのソファーに座った。

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