雨上がりの景色を夢見て
俺の頬に触れていた手が、首まで伸びてきて、俺の体を引き寄せる雛。

「…もう大丈夫です。今、こんなに幸せなんだから…」

耳元で囁かれた言葉に、切ない気持ちになり、胸がぎゅーっと締め付けられた。

いつもは、俺の方がこういう時に慰めたり、元気づけたりするのに、今はその反対。

そんなことを思っていると、雛が俺と唇を重ねた。

「…どうしたら、元気になれますか?」

えっ…

「…俺、そんな元気のない顔してる?」

「はい…。泣きそうな顔です…」

全然自覚なかった…。

「でも、ちょっと安心しました」

「えっ…?」

ふふっと笑った雛に、俺は少し困惑する。

「…夏樹さんのそういう表情見れて。…だって、家族でしょ?」

雛の言葉が、俺の心にすーっと入ってきた。そっか…そうだよな。俺だって、弱いところ見せていいのかもな…。

「…雛…」

名前を呼んで、雛を優しく自分の腕で包み込む。

「…夏樹さん?」

「んー…元気出た」

雛の方を向いて、にこっと笑うと、心配そうな表情の雛が、安心した様子で笑った。

「…一緒に寝てもいいですか?」

雛には敵わない。

「うん。おいで…」

一緒に俺の部屋へ移動し、ベットに横になる。腕枕をして、雛のかすかに香るシャンプーの匂いに包まれながら体を密着させる。

相当眠かったのか、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。

おでこにキスをして、俺も目を瞑ると、夢の中へと吸い込まれていった。







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