雨上がりの景色を夢見て
『飲んだら、一緒に帰ろう』

そう言って、賢さんが置いていったアイスコーヒーをごくっと飲んだ仁さん。

『…お母さんには…なんって?』

母には知らせてないとはいえ、今まで引きこもっていたのに突然出かけるなんて、不思議に思うと思う。

『気分転換に、散歩に行ったって伝えてあるよ』

『…それ、信じてました?』

これまでの私の様子を知っていれば、半信半疑になるのではないかと思って、聞き返していた。

仁さんは、少し困った表情で、

『うーん…どうだろう』

と苦笑いをした。

母に心配をかけないように、という仁さんの気持ちと、その気持ちを察して、あえて何も突っ込まなかった母。

母は、私と貴史の関係が羨ましいと思っていたって聞いたけど、今は逆。

仁さんと母のような夫婦関係が、羨ましい。

そう思って、胸がぎゅっと締め付けられた。














「ごめんごめん、遅くなって」

お水を飲んで待っていると、申し訳なさそうな表情で、先生が戻ってきた。

そんな先生を見て、さっきまで思い出していた感情が、愛おしさに変わった。

今、私には高梨先生がいる。先生と一緒だから、あの時仁さんと母に抱いた羨ましい気持ちは、今はもう無い。

私自身、素敵な人と出会えたから。






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