雨上がりの景色を夢見て
「ありがとう。休んでいくといいよ」

家の前の駐車場に車を停めると、シートベルトを外しながら仁さんが私達に言った。

高梨先生が返答を迷っている表情で私の方をチラッと見る。

「今日は、遅いから、また今度ゆっくり会いにくるわ」

「そう?まあ、そうだな。週末にでもおいで」

「はい。そうします」

高梨先生はそう答えて、私と並んで仁さんの後ろを歩いた。


ガチャッ

「ただいま」

「パパ、おかえり!あっ、雛ちゃんと夏樹お兄ちゃんも一緒だったんだ?」

ニコニコ笑顔の菜子に、私も笑顔になる。

「菜子ちゃん、こんばんは」

優しい口調で、しゃがみ込み、菜子と目線の高さを合わせる高梨先生。

「こんばんは」

菜子がとても嬉しそうにそう言うと、高梨先生は菜子の頭を優しく撫でた。

「菜子、これ賢おじちゃんのお店のケーキ」

ケーキの入った箱を差し出すと、キラキラした目で受け取った菜子。

「ありがとう!」

「あら、こんばんは。一緒だったのね」

リビングから出てきた母が、仁さんと一緒に帰ってきた私と高梨先生を見て、少しだけ驚いた表情をした。

「賢のところに行ってきたんだって。ケーキを買ってきてくれたよ」

「そんなに気を遣わなくても…」

「ううん。なんか、私も懐かしくて。菜子の好きなミルクレープ見たら買いたくなっちゃったの。お母さんの好きな抹茶のモンブランもあるわ」

「ふふっ、ありがとう」

母の嬉しそうな笑顔を見ると、私自身安心する。こんな風に、穏やかに微笑み合う時間が生まれたことが、とても幸せ。

「今日はもう遅いので、今度ゆっくり来ます」

高梨先生の言葉に、

「いつでもいらっしゃい」

と母は笑顔で答えた。




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