雨上がりの景色を夢見て
マンションの駐車場について、眠る雛に声をかける。

「雛、着いたよ」

「う…んっ…」

よっぽど疲れが溜まっていたのか、雛はなんとなく返事はしたけれど、意識はまだまだ夢の中。

「雛」

もう一度、今度は耳元で名前を呼んでみた。

「んー…」

そう声を出すだけで、なかなか、目を覚さない。

最近、人前に立つことが多かったから、疲れてるんだな。普段生徒の前で授業している俺とは違って、あまり大人数の前で話すことのない雛は、そう言う日の朝は、落ち着かない様子を見せていた。

きっと、今日の事も、少し緊張していたんだと思う。

あまりにも気持ちよさそうに寝ている表情に起こすのが可哀想で、俺は少しだけそのまま寝せておくことにした。

あっ…

暗闇、怖いよな。

家の中と違って、明るさの調節のできない車内。

やっぱり起こして、連れて行くか…。いや、でもこんなに穏やかな表情だから、寝かせといてあげたい…。

あっ…そうだ。

俺は、そっと雛の右手に俺の左手を重ねた。

誰かの温もりが感じられていれば、目を覚ました時に暗闇でも少しはマシになると思ったから。

右手では、スマホを開いて、夏奈から来ていたメールに返信を送る。

夏奈、明後日から新婚旅行か。パリに行くって言ってたな。

俺達も、新婚旅行考えておこうかな。雛、行きたいところどこなんだろう。

後でそれとなく、探ってみよう。サプライズにするのも、ありだよな。
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