雨上がりの景色を夢見て
「あっ、チーズの香り」

リビングに戻ってきた高梨先生は、私の手元を見る前にそう呟いた。

「さすがです。食べたくなっちゃって」

「いいね」

先生はそう言うと、髪の毛を拭いていたタオルをソファーの背もたれに置いて、キッチンへと近づいてきた。

「上がるの早かったですね」

「うん。シャワーだけだからね」

チーズを切り終わった私から、すっと包丁をとって、シンクで洗い始める高梨先生。

こうやって、洗い物をしてくれる先生の自然な振る舞いに、私は最初、結構驚いていた。

今では慣れてきたけれど。

『かなり夏奈に鍛えられてきたから』

冗談混じりにそう言った高梨先生だけど、きっと夏奈さんに鍛えられただけじゃなくて、先生の元々持っている優しさなんだと思う。

「サラミ、食べる?」

冷蔵庫を開けて、高梨先生がサラミを取り出した。

「少しだけ食べようかな…」

「薄くスライスするよ」

先生は、手際よく、私よりも器用に薄くスライスしていく。

「サラミとチーズって、おつまみとして最高の組み合わせだと思う」

そう言って、私の方を見た先生と目があって、私は思わずふふっと笑った。

「…なんかさ、平和だよな」

「えっ?」

「いや、こうやって一緒につまみの準備して、ゆっくりお酒飲んで」

確かに、私もそう感じる。

「そうですね」





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