雨上がりの景色を夢見て
「雛、電気消すよ?」

「…うん」

雛に隣に寝て、リモコンで再び電気を消す。肘をついて、手に頭を乗せて、雛の方を向く。

「もう暗くしたし、こっち向いたら?」

雛の髪の毛に指を通しながら、そう声をかけると、もぞもぞっと身体の向きが変わった。

「…あんまり、見えない?」

「うん、何となーくしか見えない」

本当は、暗闇に目が慣れるのが早い方だから、ちゃんと雛の顔が見えているけど、そうでも言わないとこっちを向いてくれなそうだと思ったから、ちょっとだけ嘘をついた。

ふふっとほっとしたように笑った雛に、俺の心臓がドキッと跳ねる。

「…やっぱり朝まで顔合わせないのは寂しいから」

雛はきっと無意識なんだろうけど、突然可愛らしいことを言ったりする。

「可愛い」

「…見えて…ないんですよね?」

「うーん、どうかな」

冗談半分でそう言うと、雛は小さな声で、

「えっ」

っと反応した。

「嘘、見えてない」

クスッと笑ってそう言い直した瞬間、雛が俺の頬を両手で包み込んだ。

えっ

「夏樹さん、意地悪な顔してる」

そう、雛の拗ねた声が聞こえたのと同時に、雛の柔らかい唇が、俺の唇と重なった。

「…おあいこです」

…やられた。雛も見えてたんだ。

反応に遅れた俺の方を見て、雛は悪戯っぽく笑った。





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